第I章 演習問題 [10]

(a)→(b)の証明: 前問[9]の(a)→(b)を \(X=\bigcup\mathcal{S}\) に対して適用して得られる選択関数 \(C\) はあきらかに条件をみたす.

(b)→(c)の証明: 空でない集合の添字つきの族 \(\langle X_i\,:\,i\in I\,\rangle\) が与えられたとして, 集合族 \(\mathcal{S}\) を \[ \mathcal{S}=\big\{\,\{i\}\times X_i\,:\,i\in I\,\big\} \] と定義しよう. これに対して(b)で保証される選択関数 \(C\) を用いて, 集合 \(f\) を \[ f=\big\{\,C(\{i\}\times X_i)\,:\,i\in I\,\big\} \] と定義すれば, \(f\) は \(I\) を定義域とする関数で \(\forall i\in I(f(i)\in X_i)\) をみたす.

(c)→(b)→(a)の証明: ここで前問[9]の(b)は本問の(b)の特別な場合であるので,「すべての集合は整列順序づけできる」という形で表現された選択公理 \(\mathrm{AC}\), すなわち本問の(a)は本問の(b)から導かれることがわかる. また, 空でない集合の族 \(\mathcal{S}\) について \(\mathcal{S}\) 自体を添字集合とした直積 \[ \prod\mathcal{S}=\prod_{Y\in \mathcal{S}}Y \] を考えるなら, (c)が(b)を導くこともすぐにわかる.

(a)→(d)の証明に入る前に, 位相空間のコンパクト性の定義と直積位相の定義を復習しよう.

集合族 \(\mathcal{A}\) は, 任意有限個の \(\mathcal{A}\) のメンバーの共通部分が決して空にならないとき, 有限交叉性をもつ, という. 位相空間がコンパクトであるとは, その部分集合からなる有限交叉性をもつ任意の集合族 \(\mathcal{A}\) について, それらの閉包が交わりをもつこと, すなわち \[ \bigcap\big\{\,\mathrm{cl}(A)\,:\,A\in\mathcal{A}\,\big\}\neq 0 \] が成立することをいう. これは, 標準的な定義にいう「閉部分集合の有限交叉性をもつ族が交わりをもつ」という条件のちょっとした言いかえにすぎない.

位相空間の族 \(\langle X_i\,:\,i\in I\rangle\) が与えられたとしよう. 直積集合 \(\prod_{i\in I}X_i\) から因子 \(X_i\) への射影を \[ \mathrm{pr}_i:\prod_{i\in I}X_i\to X_i\qquad(x\mapsto x(i)) \] と書くことにしよう. このときすべての \(i\in I\) にわたる \(X_i\) の開集合の \(\mathrm{pr}_i\) にかんする逆像の全体が \(\prod_{i\in I}X_i\) 上に生成する位相のことを直積位相とよぶ. そこで, 点 \(x\in \prod_{i\in I}X_i\) の直積位相にかんする基本近傍系としては, 有限集合 \(u\subset I\) と各 \(i\in u\) に対する \(X_i\) における \(x(i)\) の近傍 \(U_i\) から得られる \[ \bigcap_{i\in u}\mathrm{pr}_i^{-1}(U_i) \] という形の集合の全体を考えればよい. この直積位相のもとで空間 \(\prod_{i\in I}X_i\) がコンパクトであるためには各因子空間 \(X_i\) がすべてコンパクトであることが必要かつ十分であるというのが, 本問の(d)にいうティコノフの定理である. もっとも, 条件の必要性は明らかなので, 通常は「コンパクト空間の直積はまたコンパクトである」という形でティコノフの定理は表明される.

(a)→(d)の証明: (a)〜(c)が互いに同値であることは確認されたので, これらの命題を自由に用いて(d)を証明する. いま, コンパクトな位相空間の族 \(\langle\,X_i\,:\,i\in I\,\rangle\) が与えられたとしよう. 直積空間 \(\prod_{i\in I}X_i=X\) とおく. \(X\) の部分集合の有限交叉性をもつ族 \(\mathcal{A}\) が与えられたとしよう. これに対して \[ \bigcap\big\{\,\mathrm{cl}(A)\,:\,A\in\mathcal{A}\,\big\}\neq 0\tag{1} \] が成立することを示したい.

まず, \(\mathcal{A}\) を, 有限交叉性をもつ極大な集合族に拡大する. そのため, まず冪集合 \(\mathcal{P}(X)\) の整列順序づけ \(\triangleleft\) を選び固定する. \(\mathcal{A}_0=\mathcal{A}\) とおき, 順序数 \(\alpha\) に対して, 次のように順次 \(\mathcal{A}_\alpha\) を定めていく: \(\mathcal{A}_\xi\) が得られた時点でまだ \(A\notin\mathcal{A}_\xi\) かつ \(X\setminus A\notin\mathcal{A}_\xi\) となっているような集合 \(A\subset X\) が存在するならば, そのうち \(\triangleleft\)-最小のものをとる. もしも \(\mathcal{A}_\xi\cup\{A\}\) が有限交叉性をもつなら, \(\mathcal{A}_{\xi+1}=\mathcal{A}_\xi\cup\{A\}\) とする. そうでないときは \(\mathcal{A}_{\xi+1}=\mathcal{A}_\xi\cup\{X\setminus A\}\) とする. そうすれば, いずれの場合も \(\mathcal{A}_{\xi+1}\) が有限交叉性をもつことになる. また, \(\alpha\) が極限順序数のときはたんにそれ以前にできた集合族の和をとって \(\mathcal{A}_\alpha=\bigcup_{\xi<\alpha}\mathcal{A}_\xi\) とする. すべての \(A\subset X\) について \(A\in\mathcal{A}_\alpha\) または \(X\setminus A\in\mathcal{A}\) となっていれば, その時点で \(\mathcal{A}_{\alpha+1}=\mathcal{A}_\alpha\) となって構成が “停止” することになる. いずれ, ある \(\alpha<|\mathcal{P}(X)|^+\) の段階でそのようなことが起こる. このときの \(\mathcal{A}_\alpha\) は最初の \(\mathcal{A}\) を含み, 有限交叉性をもち, しかも有限交叉性を保つかぎりこれ以上は拡大できないという意味で極大である.

この \(\mathcal{A}_\alpha\) のメンバーの閉包が空でない交わりをもつときには, もとの \(\mathcal{A}\) のメンバーの閉包も明らかに空でない交わりをもつから, 最初から \(\mathcal{A}\) が有限交叉性をもつ極大な集合族だったと仮定しても一般性は損われない. そこで以後そのように仮定する. このとき, 極大性から \[ \begin{gather} A_0,A_1,\ldots,A_n\in\mathcal{A}\;\rightarrow\; A_0\cap A_1\cap\cdots\cap A_n\in\mathcal{A},\tag{2}\\ \big(\,A\in\mathcal{A}\land A\subset B\,\big)\;\rightarrow\;B\in\mathcal{A},\tag{3}\\ \big(\,B\subset X\land\forall A\in\mathcal{A}(B\cap A\neq0)\,\big)\;\rightarrow\; B\in\mathcal{A} \tag{4} \end{gather} \] が成立する.

さて, 各因子空間 \(X_i\) において部分集合族 \[ \big\{\,\mathrm{pr}_i{“}A\,:\,A\in\mathcal{A}\,\} \] を考えると, \(\mathcal{A}\) が有限個のメンバーの共通部分のもとで閉じていることから, これも有限交叉性をもつ. \(X_i\) はコンパクトなので, 共通部分 \(\bigcap_{A\in\mathcal{A}}\mathrm{cl}(\mathrm{pr}_i{“}A)\) は空ではない. そこで本問(c)により, 直積集合 \[ \prod_{i\in I}\left(\bigcap_{A\in\mathcal{A}}\mathrm{cl}(\mathrm{pr}_i{“}A)\right) \] も空ではない. ここから要素 \(x\) をとる. この \(x\) がすべての \(A\in\mathcal{A}\) について \(x\in\mathrm{cl}(A)\) をみたすことを証明する. そのため \(x\) の任意の近傍 \(U\) を考えるが, 直積位相の定義により, これは有限な \(u\subset I\) と各 \(i\in u\) ごとの \(x(i)\) の開近傍 \(U_i\) によって \[ U=\bigcap_{i\in u}\mathrm{pr}_i^{-1}(U_i)\tag{5} \] の形で得られたものとしても一般性を損わない. \(A\in\mathcal{A}\) とすると, 各 \(i\in u\) について \(x(i)\in U_i\cap\mathrm{cl}(\mathrm{pr}_i{“}A)\) で \(U_i\) は開集合なので \(U_i\cap\mathrm{pr}_i{“}A\neq0\) であり, なんらかの \(y\in A\) を \(y(i)\in U_i\) となるようにとれる. このとき \(\mathrm{pr}_i^{-1}(U_i)\cap A\ni y\) であるから \(\mathrm{pr}_i^{-1}(U_i)\cap A\neq0\) である. この \(A\) が \(\mathcal{A}\) の任意の要素でよかったことを考えると, 極大族の性質(4)により \(\mathrm{pr}_i^{-1}(U_i)\in\mathcal{A}\) ということになる. しかも各 \(i\in u\) ごとにこれが言えるので, 極大族の性質(2)により, \(U=\bigcap_{i\in u}\mathrm{pr}_i^{-1}(U_i)\in\mathcal{A}\) である. こうして \(x\) の近傍 \(U\) が \(\mathcal{A}\) に属するとわかった. このとき, 有限交叉性により, \(\mathcal{A}\) のどのメンバーも, 点 \(x\) のすべての近傍と交わる. よって, 点 \(x\) は \(\mathcal{A}\) のすべてのメンバーの閉包に属することになり, (1)式が成立する.

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最後に(d)から他の三つの命題が導かれることだが, ヒントに示された方針はケリーの証明を再構成するには言葉が足りないので, その補足も兼ねて, ここに解説を書く.

目標は, (d)から(c)を導くこと. 空でない集合の族 \(A_i\) (\(i\in I\)) が与えられたとして, 直積集合 \(\prod_{i\in I}A_i\) が空でないことを示す.

ヒントにあるようにどの \(A_i\) にも属しない \(p\) を固定して \(X_i=A_i\cup \{p\}\) とおく. ヒントでは \(X_i\) に与えるべき位相の記述が不明瞭だったが, それを次のように修正する: \(X_i\) の部分集合 \(U\) が開集合であるのは, \(U=0\) であるか \(U=\{p\}\) であるか, あるいは補集合 \(X_i\setminus U\) が有限集合であるときである. つまり, \(A_i\) にいわゆる“補有限位相”を与えたうえで, \(\{p\}\) を孤立点として添加したのが \(X_i\) の位相である. このとき, 各 \(X_i\) はコンパクト空間となる. そこでチコノフの定理(d)により, 直積空間 \(X=\prod_{i\in I}X_i\) もコンパクト空間である. すべての \(i\in I\) に対して \(p\) を値にとる関数が \(X\) に属するので, \(X\) は空ではない.

各 \(i\in I\) について, \[ F_i = \{\,x\in X\,:\,x(i)\neq p\,\} \] とおこう. 各 \(X_i\) において \(\{p\}\) を開集合としているので, \(F_i\) は \(X\) の閉部分集合である. また, 集合族 \(F_i\) \((i\in I)\) は有限交叉性をもつ. というのも, \(i_1,\ldots,i_n\) を \(I\) からとった任意有限個の添字とするとき, \(a_1\in A_{i_1},\dots,a_n\in A_{i_n}\) を選び (これは有限回の選択なので, ここでは選択公理は不要), \(a(i_1)=a_1,\dots,a(i_n)=a_n\), それ以外の \(i\in I\) においては \(a(i)=p\) とすれば, \(a\in F_{i_1}\cap\cdots\cap F_{i_n}\) となるからである.

さて \(X\) はコンパクト空間であるから, 有限交叉性をもつ閉集合族 \(F_i\) \((i\in I)\) は共通要素をもつ. すなわち \(\bigcap_{i\in I}F_i\neq0\) であるが, ここで \[ \bigcap_{i\in I}F_i = \left\{\,x\in \prod_{i\in I}X_i\,:\,\forall i\in I\,\big(\,x(i)\neq p\,\big)\,\right\}=\prod_{i\in I}A_i \] であるから, 直積集合 \(\prod_{i\in I}A_i\) が空でないとわかる.〔証明おわり〕

細かいチェックは略しているので適当に行間を埋めてください.

有限交叉性をもつ極大な集合族とは超フィルターにほかなりません. 超フィルターへの拡大にはツォルンの補題を用いるのがこんにちの定石なのですが, (a)〜(d)の同値性の証明に, それらと同値なもうひとつの重要命題であるツォルンの補題を証明もせずに持ち出すのは適切でないと判断して, 整列順序づけ可能性を用いて有限交叉性をもつ極大族の存在証明をしています. ツォルンの補題は次の[11]で証明されます. ツォルンの補題のかわりに整列定理を用いた点を別にすれば, (a)→(d)の証明は松坂和夫『集合・位相入門』(岩波書店)の示した筋道にほぼ沿っています.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年5月29日)
2011年7月26日更新: \(\TeX\) の表記を一部修正
2012年1月16日更新: (d)→(c)の証明を追記

この解答に不具合を発見した方はぜひご指摘ください.

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