第I章 演習問題 [21]

圏論の論理的基礎については, S.マックレーン『圏論の基礎』(三好博之/高木理 訳, シュプリンガー・フェアラーク東京)の第I章(とくに第6節)で論じられている. 詳しくはその本で勉強してもらうことにして, ここでは概略のみ書こう. マックレーンは二つの方法を紹介している.

第一の方法は, ZF集合論が扱う全ての集合に言及するのを控えて, 圏論の対象を《小さな集合》に制限すること. ある集合 \(U\) が次の性質をもつと仮定する:

  1. \(U\) は推移的,
  2. \(\forall a,b\in U(\,\{a,b\}\in U\land\langle a,b\rangle\in U\land a\times b\in U\,)\),
  3. \(\forall a\in U(\,\mathcal{P}(a)\in U\land \bigcup a\in U\,)\),
  4. \(\omega\in U\),
  5. \(\forall a\in U(\,{}^aU\subset U\,)\).

ただし, 条件(1)〜(5)からは, \(U\) がなんらかの強到達不能基数 \(\kappa\) に対する \(R(\kappa)\) (→第III章定義2.1)であることが導かれるので, この仮定はZFCから証明できない. これらの条件をみたす \(U\) のことを「ユニヴァース」とよび, その要素のことを「小さな集合」とよぶ. 《通常の数学》は ユニヴァース \(U\) のなかで十全に展開できることを思えば, 圏論の言及の範囲 すなわち対象と射の範囲を \(U\) に制限してしまっても実質的に失うものはない. そこで, 圏論を使った数学はZFCプラス「ユニヴァースの存在」という体系の中で自由に展開できることになる.

第二の方法は, クラスに言及する変数をもった集合論へとZF集合論を拡張すること. 本書(キューネン『集合論』)第I章第12節で紹介されているNBGはクラスへの言及を認めながら, 集合のみに言及する式にかんする限りZFCと同等な理論となっている. したがって, NBGでは「対象の全体」「射の全体」「射にドメインを対応させる写像」「射にコドメインを対応させる写像」「対象にその恒等射を対応させる写像」「射の合成という演算」などはクラスとして実体的に記述できるいっぽう, それらの装置を用いて証明された《集合についての定理》はZFCで証明可能な定理であることが保証される.

ただし, 上記のどちらの方法も, 本問が求める《ZFCの枠内での形式化》に, 厳密な意味でなってはいない. 第一の方法で定式化された圏の理論の定理をZFCの定理として受け入れるためには, その証明で用いられた構成ができる程度に十分多くの演算のもとで閉じた《ユニヴァースの近似》となる集合の存在がZFCで証明できることを, 第IV章で扱われる反映原理などを用いて, そのつど検証する必要があるだろう. また, 第二の方法で定式化された圏の理論での証明は, クラス変数への言及を消去するメタ理論における操作によって, ZFCからの証明へと書き換えられることになる. その操作は本章の定理9.3 (\(\mathbf{ON}\)上の超限再帰) におけるクラスへの言及を消去した訳本33ページ(原著25ページ下)での議論と同様のものになる.

クラスに陽に言及できないことがZFの形式上の限界で, そのことはことあるごとに問題になるのですが, 圏論との比較ではそれが如実にあらわれるようです. ここで紹介した二つの方法のいずれも, キューネンならば《メタ理論における不恰好な韜晦》an inelegant circumlocution in the metatheory と呼ぶようなものでしかありません. もっとよい方法はないものでしょうか.

[2011年6月3日追記/同4日微修正] この解答について, 上記マックレーン本の訳者の一人である 三好博之さん からコメントを頂戴しました. 許可を得て掲載します. 圏の理論の申し分のない定式化を求める方は, そこに示された文献等を調べてみてください.

@tenapiさんの解答は妥当ですが,そこに注意してあるように,Mac LaneのCWMに書いてある方法ではZFC内ですべてやるわけではないので演習問題の解答としては不満な点があると思います. 圏論の基礎付けについてはS. Fefermanが昔から関心を持っていて集合論に限らず色々な方法でやっています. ZFCの中で圏論に必要なクラスの階層を完全にシミュレートするのは彼が確かLNM106:201-247(1969)の論文でやっていたと思います. 私はFefermanのトリックと呼んでますが,要するに言語の読み替えです,大雑把に言えば,ある基数以下の集合を「集合」としそれらの集合を「クラス」とし,合わせて他の用語も適宜読み替えることで,ZFCの中に整合的に「クラス」の階層を構成することが出来ます. 多分Kunenが演習問題の解答として完全にZFCの内部にcumulativeな階層を構成することを求めているのであれば多分これが正答でしょう. A. Blassのサーベイ論文 http://www.math.lsa.umich.edu/~ablass/interact.pdf にもおおまかな説明があります. Fefermanの他のアプローチについても彼のウェブページから取得できます. まあ圏論の立場からいえばsmallとlargeを区別する事が重要なのであってそれにどんな集合論を使うかはあまり重要ではないということです. Homsetに対してある程度集合論的な記述が使えれば大体の事はできます. だから例えば集合論の代わりにトポスの内部言語(実質的には構成的集合論)でその程度のことは書けるので全部圏でやってしまおうという発想も出てきます. Lawvereのにはもっと極端なのもあります. まあ厳密でないところもありますがそこはまあLawvereなので. あと,追加でコメントするとすれば, 普通の数学ではあんまり大きな集合は使わないのでFefermanの方法でも大体困らないはずなのですが,〈集合〉のように普通の集合と区別する用語を導入するのが煩雑なので,普通の数学者はZFCを拡張していると想定していると思います. 》

三好さん, ありがとうございました.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年5月31日)
2011年6月3日更新: 三好博之 (@metaphusika) さんのコメントを掲載
2011年6月4日更新: 誤記の修正と, 三好博之さんのコメントの追加

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