第IV章 演習問題 [21]

演習問題[20]で述べられた理論, すなわち, \(\mathrm{ZFC}^{-}\) に 《任意の外延的関係はある推移的集合上の \(\in\) と同型である》 という変形モストフスキ定理を公理として追加した理論において議論する. この理論においても, 整礎集合のクラス \(\mathbf{WF}\) が \(\mathrm{ZFC}\) をみたすことが証明できる. 任意の有限部分 \(S\subset\mathrm{ZFC}^{-}\) が与えられたとして, \((\bigwedge S)^{R(\beta)}\) が成立するような基数 \(\beta\) をとりなさい. 次に, \(\omega\) の部分集合のなす単項でない超フィルター \(\mathcal{F}\subset\mathcal{P}(\omega)\) による \(R(\beta)\) の超冪を構成する.

超冪の構成 \(R(\beta)\) の要素の可算列の全体 \({}^\omega{R(\beta)}\) 上に, \[ s\mathrel{=_{\mathcal{F}}}t\;\leftrightarrow\;\big\{\,i\in\omega\,:\,s(i)=t(i)\,\big\}\in\mathcal{F} \]という二項関係 \(=_{\mathcal{F}}\) を考える. \(\mathcal{F}\) がフィルターであることから \(=_{\mathcal{F}}\) は同値関係となる. 各 \(s\in{}^\omega{R(\beta)}\) の同値類を \([s]\) と書くことにする. とくに定数値関数 \(c_a(n)=a\) \((n\in\omega)\) の場合には \([c_a]\) を \({}^*\!a\) と書く. 商集合 \({}^\omega{R(\beta)}/=_{\mathcal{F}}\) に二項関係 \[ s\mathrel{\in_{\mathcal{F}}}t\;\leftrightarrow\;\big\{\,i\in\omega\,:\,s(i)\in t(i)\,\big\}\in\mathcal{F} \] を与えた構造のことを \(\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\) と書いて, \(\langle R(\beta),{\in}\rangle\) の \(\mathcal{F}\) による超冪と呼ぶ. 超冪のもっとも基本となる性質は, 次のウォシュの定理であろう

ウォシュの定理 任意の式 \(\phi\) と任意の \(s_1,\ldots,s_n\in{}^\omega{R(\beta)}\) について, \[ \Big(\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\models \phi([s_1],\ldots,[s_n])\Big) \;\leftrightarrow\; \Big\{\,i\in\omega\,:\,\langle R(\beta),{\in}\rangle\models\phi(s_1(i),\ldots,s_n(i))\,\Big\}\in\mathcal{F} \]が成立する. \(\square\)

とくに, 自由変数をもたない文 \(\phi\) については \[ \phi^{\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})}\;\leftrightarrow\;\phi^{R(\beta)} \]であり, 結果として \(\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\) は \(S\) のモデルになっている.

さて, 超冪 \(\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\) の要素 \({}^*\!\omega\) を考えよう. ウォシュの定理から \((\langle{}^*\!\omega,{<}\rangle\) は整列順序\()^{\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})}\) である. いっぽう, \[ s_n(i)=\begin{cases} i-n,&\text{if }i\geq n,\\ 0, &\text{if }i< n \end{cases} \]なる \(s_n\in{}^\omega{R(\beta)}\) については, \([s_n]\mathrel{\in_{\mathcal{F}}}{}^*\!\omega\) であり, しかも \(([s_{n+1}]<[s_n])^{\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})}\) であるから, \({}^*\!\omega\) 上の \((\)自然な順序\()^{\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})}\) は, 真の宇宙においては, 全順序づけではあるが整列順序づけではない.

ところで, 構造 \(\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\) の関係 \({\in}_{\mathcal{F}}\) は外延的であるから, 変形モストフスキ定理により, ある推移的集合 \(M\) 上の \({\in}\) と同型である. そのため, 自由変数をもたない文 \(\phi\) については \[ \phi^M\;\leftrightarrow\;\phi^{\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})} \;\leftrightarrow\;\phi^{R(\beta)} \] となり, とくに \(\langle M,{\in}\rangle\) は \(S\) のモデルになっている. \[ h:\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\simeq \langle M,{\in}\rangle \]を同型写像とし, \(h({}^*\!\omega)=a\) としよう. つまり \(a=(\omega)^M\) であるから, \((a\) の自然な順序づけ \(<\) は整列順序づけ\()^M\) であるが, 上で \(\mathrm{ult}(R(\beta),\mathcal{F})\) について見たとおり, この順序づけは真の宇宙においては整列順序づけではない.

以上により, 整列順序づけであるという概念が絶対的でないような \(S\) の推移的モデル \(M\) が存在することは \(\mathrm{ZFC}^{-}\) と矛盾しない. これが示したいことであった.

不思議なことに, 上で構成した \(M\) は, \(R(\beta)\) と初等的同値ですから, 基礎の公理の推移的モデルになっています. なんともパラドクシカルな状況ではないでしょうか. これは, 冪集合の概念が絶対的でないような推移的モデルにおいて成立する基礎の公理はそのモデル自身が整礎的であることを保証するほど強力ではないということを意味していると思われます.

また, \(\omega\) のようなとても基本的なオブジェクトの絶対性も, 基礎の公理に依存していることが, この証明からわかります. \(\mathrm{ZFC}^{-}\) では \(\omega\) が \(\mathrm{ZFC}\) のなんらかの有限部分理論の推移的モデルに対して絶対的であることを証明できないわけです.

超冪とウォシュの定理については, 齋藤正彦『超積と超準解析』(東京図書) などの本を参照してください.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年7月2日)

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