第IV章 演習問題 [24]

訳本195ページの問題文の \(\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}^{-})\rightarrow\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}^{-}+\neg\mathrm{AC})\) というのは \(\mathrm{Con}(\mathrm{ZF}^{-})\rightarrow\mathrm{Con}(\mathrm{ZF}^{-}+\neg\mathrm{AC})\) の間違いです. 訳者のミスです. すみません.

ヒントにあるとおり, \(U\) を \(\forall x\in U\,(x=\{x\})\) をみたす無限集合とし, \(\mathrm{ZFC}^{-}+\mathbf{V}=\mathbf{WF}(U)\) において議論する. \(U\) からそれ自身への全単射の全体が, 写像の合成のもとでなす群 (\(U\) の対称群) を \(G\) とする. \(U\) の部分集合 \(B\) の固定群 \(G_B\) を \[ G_B = \big\{\,\pi\in G\,:\,\forall x\in B(\,\pi(x)=x\,)\,\big\} \]と定義する. \(G_B\) は \(G\) の部分群で, \(B\subset B'\) のとき \(G_B\supset G_{B'}\) となる. 置換 \(\pi\in U\) から \(\pi_*:\mathbf{V}\to\mathbf{V}\) を, \(x\in U\) のとき \(\pi_*(x)=\pi(x)\) とし, そうでないとき \(\pi_*(x)=\{\,\pi_*(y)\,:\,y\in x\,\}\) によって定める. いま考えている理論では, \(\in\) は整礎的ではないが, 仮定 \(\mathbf{V}=\mathbf{WF}(U)\) によって, どの集合 \(x\) もある順序数 \(\alpha\) について \(x\in R(\alpha,U)\) をみたすので, そのような最小の順序数についての超限再帰によって \(\pi_*\) を定義できる. いま \(\pi_*\) は逆写像 \((\pi^{-1})_*\) をもつから \(\mathbf{V}\) の全単射であり, 定義により \(\in\) 関係を保つから, \(\mathbf{V}\) の自己同型である.

クラス \(\mathbf{A}\) を \[ \mathbf{A}=\Big\{\;x\,:\,\exists B\subset U\,\big(\,|B|<\omega\land \forall\pi\in G_B\,(\,\pi_*(x)=x\,)\,\big)\;\Big\} \]と定義する. \(U\) の特定の有限個の要素を固定しておきさえすれば, 他の要素をどのように置換しようとも変化をうけないという意味で 《ほとんど対称な集合》 のクラスが \(\mathbf{A}\) である. さらに, 《遺伝的にほとんど対称な集合》のクラス \(\mathbf{HA}\) を \[ \mathbf{HA}=\Big\{\;x\,:\,x\in \mathbf{A}\land\mathrm{tr\,cl}(x)\subset\mathbf{A}\;\Big\} \]によって定義する. これから, \(\mathbf{HA}\) が \(\mathbf{ZF}^{-}\) の推移的モデルであることを証明するために, いくつかの補題を用意する.

補題 1 \(\mathbf{HA}\) は推移的クラスである. \(\square\)

補題 2 \(\mathbf{A}\) は \(G\)-不変である. すなわち, \(a\in\mathbf{A}\) かつ \(\pi_0\in G\) のとき \({\pi_0}_*(a)\in\mathbf{A}\) である.

【証明】 \(a\in \mathbf{A}\) かつ \(\pi_0\in G\) としよう. いま \(U\) の有限部分集合 \(B\) を \(\pi\in G_B\) のとき必ず \(\pi_*(a)=a\) となるようにとったとする. このとき \[ \pi_*({\pi_0}_*(a)) = {\pi_0}_*\big((\pi_0^{-1}\pi\pi_0)_*(a)\big) \]であるから, \(\pi_0^{-1}\pi\pi_0\in G_B\) であれば \(\pi_*\) は \({\pi_0}_*(a)\) を固定する. ところで \[ \pi_0^{-1}\pi\pi_0\in G_B\;\leftrightarrow\;\pi\in G_{\pi_0{“}B} \]である. つまり \[ \forall \pi\in G_{\pi_0{“}B}\,\big(\pi_*({\pi_0}_*(a))={\pi_0}_*(a)\big) \]である. \(\pi_0{“}B\) は \(B\) と同じ個数の要素からなる有限集合であるから, このことは \({\pi_0}_*(a)\in \mathbf{A}\) であることを意味する. こうして \(\mathbf{A}\) は任意の置換 \(\pi_0\in G\) のもとで不変である. \(\square\)

補題 3 任意の \(a\) について \(\mathrm{tr\,cl}(\pi_*(a))=\pi_*(\mathrm{tr\,cl}(a))\) である.

【証明】 \(\pi_*\) が \(\mathbf{V}\) の自己同型写像であることによる. \(\square\)

補題 4 \(\mathbf{HA}\) は \(G\)-不変である.

【証明】 補題2と補題3による. \(\square\)

補題 5 整礎的集合はすべてクラス \(\mathbf{A}\) に属する. すなわち \(\mathbf{WF}\subset\mathbf{HA}\) となる.

【証明】 順序数 \(\alpha\) に関する超限帰納法で, 任意の置換 \(\pi\in G\) に対して \(\pi_*\restriction R(\alpha)\) が恒等写像であることを証明できる. したがって \(\mathbf{WF}\subset\mathbf{A}\) となるが, \(\mathbf{WF}\) は推移的クラスだから \(\mathbf{WF}\subset\mathbf{HA}\) である. \(\square\)

以上の準備のもとで, \(\mathbf{HA}\) が \(\mathrm{ZF}^{-}\) の公理をみたすことを順に確認していく.

外延性公理 \(\mathbf{HA}\) は推移的クラスであるから, 外延性公理をみたす.

内包公理 \(a,p_1,\ldots,p_n\in\mathbf{HA}\) だったとして, 式 \(\phi\) によって集合 \(b\) を \[ b = \{\,x\in a\,:\,\phi(x,p_1,\ldots,p_n)\,\}^{\mathbf{HA}} \]と定めたとしよう. \(U\) の有限部分集合 \(B_0,B_1,\ldots,B_n\) を \[ \begin{gather} \pi_*(a)=a,\qquad&(\pi\in G_{B_0})\\ \pi_*(p_1)=p_1,\qquad&(\pi\in G_{B_1})\\ \cdots\\ \pi_*(p_n)=p_n,\qquad&(\pi\in G_{B_n}) \end{gather} \]となるようにとれる. そこで, \(B=B_0\cup B_1\cup\cdots\cup B_n\) とすると, \(B\) も \(U\) の有限部分集合で, \(G_B\) に属する置換は \(a,p_1,\ldots,p_n\) のすべてを固定する. そこで, \(\pi\in G_B\) のとき (\(\pi_*\) が \(\mathbf{V}\) の自己同型写像であることにより) \[ \begin{align} x\in \pi_*(b) \,\leftrightarrow\,& x\in \pi_*(a)\land\phi\big(x,\pi_*(p_1),\ldots,\pi_*(p_n)\big)^{\mathbf{HA}}\\ \,\leftrightarrow\,& x\in a\land\phi\big(x,p_1,\ldots,p_n\big)^{\mathbf{HA}}\\ \,\leftrightarrow\,& x\in b \end{align} \]となり, \(\pi_*(b)=b\) したがって, \(b\in\mathbf{A}\) となる. いっぽう, \(b\subset a\) であることから \(\mathrm{tr\,cl}(b)\subset\mathrm{tr\,cl}(a)\subset\mathbf{A}\) であるから, 結局 \(b\in \mathbf{HA}\) である. したがって \(\mathbf{HA}\) は内包公理をみたす.

対の公理, 和の公理 任意の \(\pi\in G\) について \(\pi_*\) が \(\mathbf{V}\) の自己同型写像であることから \[ \pi_*(\{a,b\})=\{\pi_*(a),\pi_*(b)\},\qquad \pi_*\Big(\bigcup a\big)=\bigcup\pi_*(a) \]となっている. したがって, もしも \(\pi_*(a)=a\), \(\pi_*(b)=b\) なら \(\pi_*(\{a,b\})=\{a,b\}\), \(\pi_*(\bigcup a)=\bigcup a\) となる. いま, \(a,b\in\mathbf{A}\) で \(G_A\) の置換が \(a\) を固定し \(G_B\) の置換が \(b\) を固定するとすれば, \(G_{A\cup B}\) の置換が \(\{a,b\}\) と \(\bigcup a\) を固定するので, \(\{a,b\},\bigcup a\in \mathbf{A}\) となる. すなわち, \(\mathbf{A}\) は対や和集合の演算のもとで閉じている. ここでさらに \(a,b\in\mathbf{HA}\) であったとすると, \[ \mathrm{tr\,cl}(\{a,b\})=\{a,b\}\cup\mathrm{tr\,cl}(a)\cup\mathrm{tr\,cl}(b)\subset\mathbf{A},\qquad \mathrm{tr\,cl}(\bigcup a)\subset\mathrm{tr\,cl}(a)\subset \mathbf{A} \]であるから, \(\{a,b\},\bigcup a\in\mathbf{HA}\) となる. こうして \(\mathbf{HA}\) も対や和集合の演算のもとで閉じているから, 対の公理と和集合の公理をみたす.

冪集合の公理 上と同様の論法で \(\mathbf{A}\) が冪集合演算のもとで閉じていることも容易に知られるが, たとえ \(a\in\mathbf{HA}\) であったとしても \(a\) の部分集合のひとつひとつまでが《ほとんど対称》となる保証などはない. 冪集合の公理を検証するには, \(\mathbf{HA}\) における冪集合すなわち \(\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA}\) を検討しなければならない. 置換 \(\pi\) が \(a\) を固定するなら \(\pi_*(\mathcal{P}(a))=\mathcal{P}(\pi_*(a))=\mathcal{P}(a)\) であるから, \(\mathbf{HA}\) の \(G\)-不変性とあわせて \[ \pi_*\big(\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA}\big) =\mathcal{P}(\pi_*(a))\cap\mathbf{HA} = \mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA} \]となる. したがって \(a\in \mathbf{HA}\) のとき \(\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA}\in\mathbf{A}\) であり, さらに \[ \mathrm{tr\,cl}(\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA})\subset\big(\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA}\big)\cup\mathrm{tr\,cl}(a)\subset\mathbf{HA} \]となるから \(\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA}\in\mathbf{HA}\) である. 推移的クラス \(\mathbf{HA}\) においては \((\mathcal{P}(a))^{\mathbf{HA}}=\mathcal{P}(a)\cap\mathbf{HA}\) なので, \(\mathbf{HA}\) は冪集合の公理をみたす.

無限公理 \(\omega\in\mathbf{WF}\subset\mathbf{HA}\) なので \(\mathbf{HA}\) は無限公理をみたす.

置換公理 \(a\in\mathbf{HA}\), \(p_1,\ldots,p_n\in\mathbf{HA}\) であって, 式 \(\phi\) について \[ \Big(\; \forall x\in a\exists! y\,\phi(x,y,p_1,\ldots,p_n) \;\Big)^{\mathbf{HA}} \]となっているとしよう. これはつまり \[ \forall x\in a\exists! y\,\Big(\,y\in\mathbf{HA}\land \phi(x,y,p_1,\ldots,p_n)^{\mathbf{HA}}\,\Big) \]ということであるから, \(\mathbf{V}\) での置換公理によって, 集合 \(b\) を \[ \forall x\in a\exists y\in b\,\Big(\,y\in\mathbf{HA}\land \phi(x,y,p_1,\ldots,p_n)^{\mathbf{HA}}\,\Big) \]となるようにとれる. ここで必要なら \(\mathbf{V}\) での内包公理によって部分集合を抜き出して \[ b = \{\,y\,:\,y\in\mathbf{HA}\land \exists x\in a\,\phi(x,y,p_1,\ldots,p_n)^{\mathbf{HA}}\,\} \]となっているものとしてよい. このとき \(\pi\in G\) について \[ \pi_*(b)= \big\{\,y\,: \,y\in\mathbf{HA} \land \exists x\in \pi_*(a)\, \phi\big(x,y,\pi_*(p_1),\ldots,\pi_*(p_n)\big)^{\mathbf{HA}} \,\big\} \]となる. そこで, いま \(U\) の有限部分集合 \(B\) を, (内包公理の証明でやったように) \[ \forall \pi\in G_B\big(\,\pi_*(a)=a\land \pi_*(p_1)=p_1\land\cdots\land\pi_*(p_n)=p_n\,\big) \]となるほどに十分大きくとれば, \(\forall \pi\in G_B(\,\pi_*(b)=b\,)\) となるので \(b\in\mathbf{A}\) である. また, \(b\) のつくり方から \(b\subset \mathbf{HA}\) であるから, \[ \mathrm{tr\,cl}(b)=b\cup\bigcup\{\,\mathrm{tr\,cl}(y)\,:\,y\in b\,\}\subset\mathbf{A} \]となる. したがって \(b\in\mathbf{HA}\) である. こうして \[ \big(\,\exists b\forall x\in a\exists y\in b\,\phi(x,y,p_1,\ldots,p_n)\,\big)^{\mathbf{HA}} \]となるので, \(\mathbf{HA}\) は置換公理をみたす.

これで \(\mathbf{HA}\) が \(\mathbf{ZF}^{-}\) の推移的モデルであることはわかった. あと示すべきことは \(U\in\mathbf{HA}\) であることと, \((U\) が整列順序づけ不可能である\()^{\mathbf{HA}}\)ことだ. といっても前者は簡単で, すべての \(\pi\in G\) はそもそも \(U\) 上の置換であるから当然 \(\pi_*(U)=U\) であり \(U\in\mathbf{A}\) となり, しかも \(U\) は推移的集合であるから \(U\in\mathbf{HA}\) となる. 後者については, そもそも \(U\) の全順序づけですら \(\mathbf{HA}\) には存在しない. それを示すために \(R\) を \(U\) 上の全順序づけとしよう. \(B\) を \(U\) の有限部分集合とすると \(U\setminus B\) には無数の要素があるから, 相異なる二つの要素 \(x\) と \(y\) をとろう. \(x\neq y\) なので \(\langle x,y\rangle\) か \(\langle y,x\rangle\) のどちらか一方のみが \(R\) に属する. ところが, いま \(\pi\) を \(x\) と \(y\) の互換とすれば \(x,y\notin B\) より \(\pi\in G_B\) であり, また \(\pi_*(\langle x,y\rangle)=\langle y,x\rangle\) であるから \[ \pi_*(\langle x,y\rangle)\in R \;\leftrightarrow\;\langle y,x\rangle\in R \;\leftrightarrow\;\langle x,y\rangle\notin R \;\leftrightarrow\;\pi_*(\langle x,y\rangle)\notin \pi_*(R) \] したがって \(\pi_*(R)\neq R\) となる. このようにどんな有限部分集合 \(B\subset U\) をとっても \(\exists \pi\in G_B(\pi_*(R)\neq R)\) となるので \(R\notin \mathbf{A}\) である.

同様にして, 外延性公理を弱めて空集合以外にも要素をもたない始原要素(urelemnt)を認める \(\mathrm{ZFA}\) 集合論 (本書第IV章第4節の末尾で言及された \(\mathrm{ZF}^{--}\) に, しかるべく修正された基礎の公理と, 始原要素の全体がひとつの集合をなすという公理を追加したもの) においても, 始原要素の置換の群を考えることによって同様の結果が得られます. 基礎の公理を認め始原要素を認めない \(\mathrm{ZF}\) 集合論からの選択公理の独立性には強制法を用いますが, このフランケルとモストフスキの結果にあらわれた 《高い対称性をもつ要素のクラスを考える》 という発想は, そこでも引きつがれています.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年7月2日)
2011年7月4日更新: 訳本の誤記を指摘

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