第IV章 演習問題 [29]

ヒントにあるとおり, 可算無限個の相異なる集合 \(x_0,x_1,x_2,\ldots\) を \[ x_n=\{x_{n+1}\} \qquad (n\in\omega) \]となるようにとり, \(M_0=\{\,x_n\,:\,n\in\omega\,\}\) とおく. \(M_k\) の有限部分集合全体の集合を \(M_{k+1}\) として集合の列 \(\langle\,M_k\,:\,k\in\omega\,\rangle\) を定め, \(M=\bigcup_{k\in\omega}M_k\) とおく. このとき

  1. \(M\) は推移的集合である,
  2. \(M\) の要素はどれも有限集合である,
  3. \(M\) の有限部分集合はすべてまた \(M\) の要素となる

これらの条件から, \(M\) が \(\mathrm{ZFC}^{-}-\mathrm{Inf}\) の推移的モデルであることが(第3節で \(R(\omega)\) が \(\mathrm{ZFC}-\mathrm{Inf}\) のモデルであることを確かめたのと同様にして)わかる. 基礎の公理だけはただちに明らかというわけではないが, 次のとおり検証できる.

[\(M\) が基礎の公理をみたすことの証明] まず \(M_0\) の要素 \(x_n\) はどれもただひとつの要素 \(x_{n+1}\) からなり, \(x_{n+1}\) のただひとつの要素 \(x_{n+2}\) が \(x_{n+1}\) とは異なることから \(x_{n}\cap x_{n+1}=0\) である. つぎに, \(x\in M_{k+1}\setminus M_{k}\) だとしよう. \(x\neq0\) とし, \(x\cap M_k\neq0\) となる最小の \(k\) を考える. \(k=0\) なら \(x_n\in x\) となる \(n\in\omega\) があるが, \(x\) は有限集合だからそのような \(n\) のうち最大のものをとれば \(x_n\cap x=0\) となる. \(k>0\) なら \(x\cap M_k\) の要素 \(y\) について \(k\) の最小性より \(y\cap x=0\) となる.したがって \[ \forall x\in M\big(\,x\neq0\,\rightarrow\,\exists y\in x\,(y\cap x=0)\,\big) \] となり \(M\) が基礎の公理をみたすことがわかる. \(\square\)

したがって \(M\) は \(\mathrm{ZFC}-\mathrm{Inf}\) のモデルである. あとは \((\)推移閉包をもたない集合が存在する\()^M\) ことを証明すればよい. 推移的集合の概念は任意の推移的モデルに対して絶対的であるから, \(M\) の要素であってそれを含む推移的集合が一つも \(M\) に属さないようなものを見つければよいことになる. じつは \(M_0\) の要素 \(x_n\) がみなそのような集合になっている. というのも, \(x_n\) を含む推移的集合は \(x_{n+1},x_{n+2},\ldots\) をすべて含み, 必然的に無限集合となるからである.

問題文では「推移閉包の存在しないような集合 \(x\) が \(\mathrm{ZFC}-\mathrm{P}-\mathrm{Inf}\) と矛盾しないことを示しなさい.」と書いていて, 選択公理と冪集合の公理を除外していますが, ここで考えたモデルは選択公理も冪集合の公理もみたします. いっぽう, 無限公理を除外することの必要性は明らかです.

第III章の演習問題[19]で \(\mathrm{ZF}^*-\mathrm{P}-\mathrm{Inf}\) から推移閉包の存在を証明してあるので, ここで考えたモデル \(M\) は \(\mathrm{ZF}^*-\mathrm{P}-\mathrm{Inf}\) のモデルではないということになります. しかし, 有限個の集合を拾い集めるのにはとりたてて困難はないわけですから, \(M\) は \(\mathrm{AR}^*\) 図式をみたします. あと \(\mathrm{ZF}^*\) にあって \(\mathrm{ZF}\) にないのは帰納図式 \(\mathrm{AF}^*\) だけですから, \(M\) は基礎の公理のモデルでありながら帰納図式をみたさないわけです. 実際, 第III章の演習問題[18]で基礎の公理から帰納図式を導いたときには, 推移閉包の存在を利用していました. また, 推移閉包は超限再帰によって定義することもできるはずなので, \(M\) は \(\in\) に関する超限再帰の図式もみたさないわけです. 帰納図式 \(\mathrm{AF}^*\) の証明や \(\in\) に関する再帰的定義の可能性の証明で推移閉包の存在に訴えることは避けられないというわけです.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年7月4日)
2011年7月5日更新: 言いまちがいを訂正

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