第VI章 演習問題 [20]

補題1.3(c)の結論部分にある \(X\in\mathcal{D}(A)\) という式を仮に \(\phi(X)\) と書いたとしよう. すると, 各自然数 \(n=0,1,2,\ldots\) について, \[ \forall a_0,\ldots,a_{n{-}1}\in A\Big[\,\phi\big(\{a_0,\ldots,a_{n{-}1}\}\big)\,\Big] \tag1 \] は確かに証明できる. そして, 問題にいう “補題1.3(c)の証明” は, 各自然数 \(n\) ごとに(1)が証明できるんだから \[ \forall X\subset A\Big[\, |X|<\omega\,\rightarrow\,\phi(X)\,\Big] \tag2 \] も証明できるじゃないか, と主張していることになる.

ところが, (2)が形式化された集合論の式であり, 証明が形式的証明を意味する限りにおいて, この論法は正しくない.

そのことを見るために, いま \(\phi(X)\) を

“自然数 \(|X|\) は \(\mathrm{ZFC}\) からの矛盾の形式的導出のゲーデル数ではない”

という再帰的な命題(→第I章第14節)を表現する式に書き換えたとしよう. すると, \(\mathrm{ZFC}\) が実際に矛盾していないかぎり, 各自然数 \(n=0,1,2,\ldots\) について, (1)は \(\mathrm{ZFC}\) から証明できる. いっぽう(2)からは, \(\mathrm{ZFC}\) の無矛盾性を主張する \(\mathrm{CON}^{\mathrm{ZFC}}\) が導かれることになる. ということは, \(\mathrm{ZFC}\) あるいは それよりさらに弱い \(\mathrm{ZF}\) から(2)が証明できることは, ゲーデルの第二不完全性定理(→第I章定理14.3)に反する.

まとめると, (1)の各自然数 \(n\) はメタ理論における “本当の” 自然数であり, いっぽう(2)の \(|X|\) は形式化された理論における対象としての自然数であり, 前者に対応するもので後者が尽くされる保証がない. したがって(1)から(2)を導く論法は形式化された理論における推論に置き換えられず, この問題にいう “証明” は認められない.

これは要するに, \(T\) が再帰的函数を表現するのに十分な程度の算術を含む形式化された理論であるときに, \(T \mathrel{\vdash} \psi(\lceil0\rceil)\), \(\psi(\lceil1\rceil)\), \(\psi(\lceil2\rceil),\ldots\)だからといって \(T \mathrel{\vdash} \forall n<\omega\;\psi(n)\) とは限らない, という一般的な注意のひとつの例なのですが, 今回の場合, 実際には(2)が(別の方法で)証明できるので, この論点がうっかりすると見落される可能性があります.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年9月21日)

この解答に不具合を発見した方はぜひご指摘ください.

演習問題一覧に戻る