ベルリオーズ作曲「レクイエム」/編曲者による解説(5)

ビールとお茶漬け

最終回: ベルリオーズと関係ありません

松山ウィンドオーケストラ 大久保健二

だいぶ前だが、広島にウィーンフィルがきてハイティンクの指揮でマーラーの9番をやった。前座もアンコールもない、マーラー1曲だけのカミカゼプロ。ウィーンフィルをナマで聴いたのはこれが初めてだった。

ホンモノのウィーンフィルの音は、CDなんかで聴くのと比べて、だいぶ地味に聴こえた。もっとぴかぴかなのを想像していたのだが、思ったより素朴で無骨な、古くさい音だった。木でできた工芸品のような、100年かけた手作りの音だった。そのわりには、音楽そのものはものすごく過激だった。フルートは何本もユニゾンで高音域をひゅうひゅう吹き鳴らすし、トロチュー(トロンボーンとチューバ)はステージにいるとは思えず、どこかちがう世界から突然かなづちをふりおろす。なんかしゃべろうとして途中からモゴモゴと口をつぐむように沈んでいくビオラ、ホルンはたった1本で、弦楽器全体、いや人生全体を包みこむあたたかく大きな「毛布」を表現する。月並みな言葉だが、ぼくはそのとき「やっぱ表現がさきやなあ!」と思った。

でも、こう表現したいというものがあれば、当然それを成功させるだけの技術がいる。ぼくは今カレーを作ろうとしている。手もとには3000円、近くにはスーパーよしもと。手持ちの技術で、自分が1人で普通に食べられるカレーを作るのならそれでもいい。だが、「最上級の肉を使って、本場インドのスパイスを使って、自分が考えられる限りの最高においしいカレーを、あの人のために作りたい!」という表現欲があれば、金とウデが足りない。バイトして資金をふやし、いい材料を専門店で調達し、調理法を何年も勉強してお客さんに食べさす料理を作るのだ。プロは本当にすごい。われわれアマチュアは資金も足りないし、技術にも限りがある。

だがあなた、有名シェフの金ぴかぜいたく料理、毎日食べられますか?本当は、予算3000円でも、近くのスーパーで買った材料でも、仕事が終わって家に帰って、酒を飲みながら家族でわいわい食べる夕食のほうが、おいしいんやないかな。今日の特選素材も、おいしい応援団もいらん。味つけも、いっぺん食ったらもうええというような、どこやら「激辛」なんちゃらはいらん。毎日でも食べられて、でもおいしく作るのには時間も手間ひまもかかるおみそ汁でいい。ウィーンフィルの音は最高級のおみそ汁だ。そしてウィーンフィルの楽員でちゃんと練習を積んでない人など、おらん。最近まったく逆のバンドが多いな。音は1回聴いたらもう二度とはゴメン、音楽はお湯入れて3分でインスタントラーメン。たいした努力もせずに自分用のエサだけつくって、それを食うとこをお客さんに見せてどうする。

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