交響曲第4番「ロマンティック」 (A.ブルックナー作曲)
編曲者・指揮者による解説:第3回

〜サル、ごんろく、もろびとよ抱き合え。ちゃんちゃん。〜

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ウィンドのタイコたたきに、ワカさんという人がいる。市内の中学校で吹奏楽の指導も受け持っている、優秀な大学生である。ついこないだワカさんと、矢代秋雄の交響曲について話した。ぼくは矢代の交響曲が大好きである。ワカさんはもっと別な内容の話をしにきたのだと思うけど、それを完全に無視して、その第四楽章の出だしについて自分だけ得意げにしゃべりまくってしまった。もうしわけない。ホルン4本の最低音域のクラスターとドラによって開始されるのだが、ものすごくインパクトのある出だしである。普通はこれを「日本的でいい!」とか「気色悪くてコンクールにいい!」とか評されるが、ぼくは「ブラームスの交響曲第1番の第四楽章の出だしに似ている」と思う。

ベルが後ろを向いたホルンという楽器で、この音域のそれぞれちがう音を4ついっぺんに吹いたらこんな音がして、そうだとしたら音量はこのくらいで、ステージの後ろを回って最終的に客席に聴こえる響きはこんな感じで、それにどらを加えたらこういうふうに聴こえるはずだから、それを楽譜上でこまかく調整するために強弱記号はこう書いて、音ののばしの指示は何拍にして、次の音までの休符は何拍にして・・・・っていうのが、すべて完璧に計算されている。ついでに、それまでの楽章を全て続けて演奏してきた場合、こんな雰囲気になってるだろうからこうつなぐ、とか、さらにさかのぼってハイドンの時代から現在まで発展してきた交響曲の性格からするとこの楽章のつながりはこう解釈されるはずである、とか、そこに自分はメシアンの弟子であるという個性や、そもそも日本人であるという性分は、こう形を変えて聴衆の耳に届くはずである、まですべて考えられている。ブラームスの交響曲第1番とまったく同じ。日本が誇る大傑作である。

交響曲の終楽章の出だしは、いつごろからこうなったのだろう。ぼくが知ってる限りでは、シューマンの交響曲第3番「ライン」は全五楽章だが、第四楽章がそれに当たるような感じがあるので、おそらくこれが最初じゃないかと思う。ただし、息のつまるような圧迫感はない。おっとベートーベンの9番は似ているようだがちがう。僕はあの四楽章の出だしを聴くと、オペラかなんかの一場面にしか聴こえない。「じゃーんちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃんちゃん。との。今川の軍勢が桶狭間で野営に入ったとの連絡が入りました。じゃーんちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ。天はわれに見方せり。サル、ごんろく、もろびとよ抱き合え。ちゃん。ちゃん。」ベートーベンという人はそれまでの伝統に対してプレッシャーがいっさいなく、アカデミックな批判にさらされる恐れもなかった。

ブルックナーの交響曲第4番は、ウィーンフィルでの試演のあと「演奏不可能」と判定され、楽譜は作曲者につきかえされた。第四楽章は、そのあと改訂されたものである。

大久保健二(平成18年11月 松山ウィンドオーケストラ指揮者)