曲目解説/第3回定期演奏会


古風なメヌエット

モーリス・ラヴェル作曲/鹿嶋俊伸編曲

ラヴェルはドビュッシーと並んで、フランス印象派の代表とされていますが、印象派という言葉はモネ、ルノアールなどの画家に適用されるべき言葉で、本来音楽に対して適用されるべき言葉ではありません。光のうつろいを表現するという点ではドビュッシーの曲に共通点が多少ありますが、ドビュッシーではむしろ心象風景を表現することに主眼がおかれ、同じ印象という言葉を使っても、その意味するところは変わってきます。

ラヴェルにおいては、そもそも本人が印象派であると名乗ったわけではなく、むしろ自然界のあるがままをできるだけ克明に描写する手法をとります。和声面からいえば、ドビュッシーは長調を好み、その延長としての全音階的和声を使用するのに対し、ラヴェルは短調を好み、上声と下声でディアトニックな書法を用いながら中声では半音階を多用するため、結果としてドビュッシーは官能的な響きになり、ラヴェルは厳しい響きになります。一聴して絵画の印象派の雰囲気に近いのはドビュッシーですが、表現の源泉を論じずに感情だけで芸術を論じる批評家は反省して欲しいものです。

さて、「古風なメヌエット」ですが、先ごろ再演された「グロテスクなセレナード」を除けばピアノ曲での処女作になります。音楽院の学生だった20歳のラヴェルのペシミステイックな部分がよく出た作品です。複合三部形式の主部の中間部など、冗長な部分も散見されますが、それを補って余りある魅力を持ち、良い意味でも悪い意味でもその後のラヴェルの行く末を予感させる曲です。

吹奏楽のための第二組曲

グスタフ・ホルスト作曲

ホルストはフィンジ、エルガー、ウォルトン、プリテン、ヴォーン=ウィリアムスらと並ぶイギリス近代の作曲家です。夭折したフィンジを除けば、この人だけは交響曲を残していません。管弦楽曲を得意とし、とりわけ組曲『惑星』は著名です。その他あまり知られておりませんが『日本組曲』などもあります。ホルストは吹奏楽曲を数曲残していますが、第一組曲についで演奏回数が多いのがこの第二組曲です。民謡を活かし、あまり手を加えずに編曲して組曲に仕立てています。

(文:鹿嶋俊伸)


バレエ組曲『ロミオとジュリエット』作品64から

セルゲイ・プロコフィエフ作曲/大久保健二編曲

1.バレエ組曲について

「バレエ音楽」とは、舞台でバレエを踊る時の伴奏として作曲された音楽のことです。本当はバレエとして劇場で上演される時だけに演奏される音楽なので、全曲を演妻すると何時間もかかるものです。しかし、評判のいいバレエ音楽は、踊りだけでなく音楽そのものがすばらしいことが多いのです。そこで、踊りなしで音楽だけでも演奏できるようにしたものが「バレエ組曲」です。踊りがなくても十分楽しめるように、普通は作曲者が気に入った曲だけ取り出してまとめ直します。『ロミオとジュリエット』組曲は3つありますが、今回は、その20曲の中からさらに6曲選んで演奏します。

2.『ロミオとジュリエット』の物語について

この物語は、二人の若者の悲しい恋を描いた悲劇です。あらすじは次のようなものです。

モンタギュー家とキャプレット家の家族たちは、普段の生活でもいつも憎み合っていた。しかし、ある舞踏会がきっかけで出会った、モンタギュー家の息子ロミオと、キャプレット家の令嬢ジュリエットの二人は、互いに愛し合うようになり、ひそかに結婚までした。そんな時、ロミオはキャプレット家のタイボルトと決闘して彼を刺し殺してしまい、町を追放される。ジュリエットは悲しむが、両親はジュリエットを他の伯爵と結婚させようとする。僧ローレンスに相談したジュリエットは、仮死状態になる薬を飲んで死んだと思わせた後、生き返ってロミオと再会し、町の外へ逃げるという計画を実行する。しかし、連絡の行き違いからロミオは本当にジュリエットが死んだと思い、失望のうちにその墓の前で毒薬を飲んで自殺する。目を覚ましたジュリエットは、目の前で冷たくなっている夫を見て絶望し、その短剣を引き抜いて自分の胸を刺し、折り重なるように息絶える。かけつけた両家の家族は。二人の亡骸を前にこれまでのことを後悔し、仲直りを誓い合う。

3.演奏曲について

今回の楽譜は、松山ウインドオーケストラの編成に合わせて、指揮者自身が新しく編曲し直したものです。それぞれの曲は、粗曲版からの抜粋です。吹奏楽では今までに編曲されていなかったII, IV, IVの三つの楽章を含んでいますので、これらは吹奏楽版初演となります。プロコフィエフが後でつけた曲名は、もとのバレエの場面とは完全には一致していません。これは、物語の筋をくわしく知っていなくても、曲の感じから物語の雰囲気をある程度想像して楽しめるようにするためだと考えられます。本当のバレエの中で使われている音楽を、つないだり短くしたりして、管弦楽曲として独立して鑑賞できるように工夫されています。

4.バレエの場面との関連

I. モンタギュー家とキャプレット家(第2組曲)
「町中で決闘したものは死刑にする」というヴェローナの領主の劇的な宣言の後、舞踏会での騎士たちの重々しい踊りの音楽が続きます。中間部は、結婚する気がなくよそよそしい態度のジュリエットと、熱烈な結婚希望者であるパリス伯爵とのデュエットです。
II. メヌエット(第1組曲)
キャプレット家の華やかな舞踏会の様子です。気どった貴族たちのこっけいな社交術が、次々と場面を変えて現れては消えていきます。吹奏楽では演奏される機会のなかった、珍しい曲です。
III. アンテイーユ諸島から来た娘たちの踊り(第2組曲)
ロミオが追放され、パリス伯爵との結婚式が行われる日の朝の音楽です。ジュリエットの悲しくゆううつな気持ちを表しています。
IV. 朝の踊り(第3組曲)
バレエ前半の活気あふれる町の朝の音楽と、後半のにぎやかな民衆の祭の音楽の2曲を、一つにつないで作られています。
V. ジュリエットの墓の前のロミオ(第2組曲)
キャプレット家によるジュリエットの葬式の後、その遺体を前にロミオが半狂乱のうちに毒薬を飲んで自殺する場面です,バレエ全体のクライマックスがここにあたります。
汝、絶望の水先案内人よ!海になやみつかれたこの舟を,岩にのり上げさせろ!わがいとしき人のために!
VI. ジュリエットの死(第3組曲)
V.に引き続いて、ジュリエットのあまりにも悲しく、やさしい死の場面です。
そうだ、毒だわ!でも、ひどい人、みんな飲んでしまって!わたしにはただの一滴も残しては下さらないの?

そして全てが終わってしまった後の、領主の言葉。

朝とはいいながら、何か物悲しいほどの静けさではないか。太陽も、悲しみのためにその顔を見せようともしないのだ。…このロミオとジュリエットの物語ほど、世にも悲しい物語は、いまだかつて無かったのだから。

(文:大久保健二)


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