松山ウィンドオーケストラ 大久保健二

この曲は変な曲だ。メロディらしいメロディもなく、リズムもなく、ただただ重厚なハーモニーが「がーん・・・・(しーん)・・・・がーん・・・・(しーん)・・・・」と響くのみ。そのハーモニーの流れと響きが悲劇的でカッコよく、ぼくはこの曲はけっこう好きだ。お約束で。この曲のもとになった絵は、3人の男が真っ暗な地下墓地を、カンテラをかざして歩き進んでいるところ。先頭は案内役の男、うしろの二人はガルトマンとムソルグスキー。という設定。すみっこのほうに死人のドクロがいっぱい並べられて、こっちを向いているのが見える。
こないだカミサンの里に帰ったときに、でっかいダムに遊びに行った。下に降りたところに長いトンネルがある。大きな洞窟やトンネルなんかではどこでもそうだが、向こうに向かって「おおおおおおおーい!」とさけんだら、「・・・・おおーいおおーいおおーい・・・・」としつこい余韻が残る。前を歩いてる子どもがおもしろがって、やたらにわあわあさけびまくっていた。いいなあ子どもは。ぼくもやってみたくてたまらなかったが、34にもなるおっさんが、そんなガキの遊びで満足できるはずがない。金管楽器全員で「おおおおおおおーい!」ってのはどうだ。じゃあ残響はどうする?さらに閉じられた地下で冷たい空気が「ごおおおおお」っと振動するイメージはどうする?編曲は遊びだ。
やっぱムソルグスキーは、親友に向かってさけんだんだろうなあ。何回となく強奏されるハーモニーに対する答えは、この曲ではいっこも出てこない。ただ前のハーモニーの残響が弱奏で残るだけである。フレーズの会話がなく、完全な一方通行。さびしさに押しつぶされるような色合いを持った最後のハーモニーが完全に消えたあとで、そのあとに訪れる「やっぱ、だめなんやなあ・・・・」とでもつぶやくようなプロムナードの回帰。しばらく、人差し指を机の上でうじうじさすような煮え切らないうじうじが続いて、なんかちょっと吹っ切れたような、あきらめにも似たよわよわしい長調のハーモニー。涙もとりあえず止まりかけて、「うくっうくっ・・・・ずー」っていうのが1分に3回ぐらいの割合に落ち着いたような感じ。ムソルグスキーにしては、心情的にかなりリアルな表現だと思う。
「銀河鉄道の夜」という宮沢賢治の童話を、きれいなアニメにした映画があったなあ。いなくなったカンパネルラを探して列車の中を走り歩くジョバンニは、こんな気持ちだったろう。
そうやなあ。
もし、中嶋さんと二人で洞くつ探検に行って、先を歩いている中嶋さんが急にいなくなって、ぼく一人ぼっちになったら。そのときは・・・・・・一気にババヤガに突入ですな。
Copyright (c) 2005, 松山ウィンドオーケストラ, 大久保健二